なんとも言いようのない気持ちを抱えたまま歩き出す。
いっそこのまま、盗んだバイクで走り出したいくらいだ。25の夜
だが、今は100%勇気、もうやりきるしかないさ。で乗り越えるしかない。先へ。 幸い、アンジェーはわりと大きな町だ。デパート・映画館、何でもある。 ホテルもいくつかあり、直ぐに見つかった。 と言ってもそう簡単に泊まれる訳ではない。
第一の関門、フロント。まず、空き部屋の有無、人数、朝食は必要か? など、つたない英語とジェスチャーでなんとかやり過ごす。
第ニの関門、料金。確か、80ユーロ位だったか、ぼられているのか正規料金なのか 値切る物なのか、よく分からないが、言われるがままに支払う。 パスポートのコピーを取られなんとか鍵を手にする。 わりと綺麗な部屋だった。荷物を置きスーパーを探す。 歩き回った途中いくつか、スーパーらしき店を目にしたので行ってみる。 直ぐに食べられそうな、惣菜系と水、ビールを探した。 常温のビールとレジ横の冷蔵庫に入っている冷えたビール、値段が違う。 記憶の限りでは、倍くらい違がかった。安い方を買う。 ホテルに戻り、夕食、何とも味気ない。ぬるいビールが切なさをあおる。
でも、アンジェーに着き、店の場所は分かった。 取りあえずの安堵感に包まれ、明日に備え寝る。 よし!覚悟を決め再び店へ。
休み?。・・・。
閉まっている。 何なんだこの店は?よく分からぬまま町をさ迷う。 昨日の活気溢れる町とは打って変わり、静まり返る町。 しかたなくホテルに戻りもう一泊したい。と。
なかなか思うように行かない現実と、色々な思いの感情が交差するなか 考える時間が増える。 言葉の壁。町ですれ違う小さな子でもフランス語を喋っている。 当たり前の事だがプレッシャーに感じる。 翌日、これでやっていなかったらパリへ戻り店を探そう。 そんな思いで店に向かう。
やってる!! しかも、働いていると思われる日本人らしき人が!! 聞けば、今日が最終日で店を辞めると言うではないか。 事情を話すとオーナーが出てきて下さった。 詳しい経緯は不明であるが、明日から来いと。やった。
今更、知った事だが、自分が最初に訪ねた4月30日は店の定休日。 翌日、5月1日はメーデー フランスの祝日で休みだった。 日本とは違い、祝日はほとんどの店が休みだ。 当時の自分がそんな事を知る余地も無く、途方に暮れていた。 なにはともあれ やっとスタートラインに立つ事が出来た。
モンパルナス駅 初めてのTGV、フランスが誇る高速鉄道。
軍隊だろうか、3人一組で小銃を手に辺りを見回す。本物。ファマス。 ちょっと興味が合ったが心に余裕が無い。
確認に確認を重ね車両に乗り込む。 座席は指定席、また、確認に確認を重ね着席する。窓側だ。 2人がけの座席、隣にサラリーマン風の男性が座る。 一時間半後、そろそろアンジェーにつく頃か。 隣のサラリーマン風の男性はどこで降りるのだろう。寝ている。 アナウス、まもなくアンジェーと、窓側に座った自分は隣の男性になんて言って通してもらえば良いのか? 降りる気配は無い。 絞り出した言葉、ソ、ソーリー…。 なんとか席を立つ事が出来た。
何気無い事一つ一つに神経を尖らせる。 取りあえずの目的地、アンジェーに降り立つ。 ・・・。
よし!ケーキ屋を探そう。住所は分かっている。 取りあえず、駅前にいたじっちゃんに住所を見せ四方八方指を指し、こっちか?あっちか?とジェスチャーで訪ねる。 軍人上がりなのか、腕時計を指差し、3時の方向だ! と教えてくれた。
歩き始める。3時の方向と言われても・・・。どこ??歩ける距離? 不安ながらもしばし歩く。どこまで歩けばよいのか・・・。 ふと、振り返えるとさっきのじっちゃん。 手招き。 カモン。俺に付いて来い!と 大通りをぬけ、商店街に入る。ここだと。
ありがとうじっちゃん。
日本を出て3日目、ようやくたどり着いた、目的地。 が、定休日。・・・。
絶望。
しばらくフリーズしてしまったが仕方がない。町をさまよう。 今日はどこで寝よう。日も暮れかかり困り果てる。 幸い持ってきた荷物の中に薄手の毛布がある。どんな状況なのか日本では想像も出来なかったが 3日分の着替えと辞書、毛布、お金。持って行きたい物は沢山あったが小さめのスーツケース、荷物は最低限。 どれだけ歩くか分からないので軽さ重視が功をそうした。ある程度、想定の範囲内だ。 いざとなれば、公園で毛布にくるまり夜を明かそう。
しばらく歩くと、漢字のカラフルなネオンの店が目に留まった。 漢字と言ってもなんて書いてあるかは読めない。 ○○酒家、てきな外国にありがちなおそらく中国の人の店だ。 漢字に心ひかれ、なんだか嬉しかった。今日もろくな物を食べていない。 行ってみるか。なんか食えるだろう。
思い切って店の扉を開ける。 すると、アジア人風の男性が3人女性が1人。 唐突にジャパニーズ? と聞かれ、 イエスと答える。 すると厨房の奥にいた、ごついおっちゃんが 片言の日本語で、サヨウナラと。 ??? 彼らの表情から察した。日本人に食わせる物など無い。と言わんばかりだ。 足場に立ち去る。 なんとも言いようのない殺伐とした空気、感情。俗に言う差別。 ただ、当時冷静にこれが差別ってやつかと捉えてる自分がいたのも覚えている。
色んな人がいる。日本とは違う。痛感する。 先程の毛布にくるまって寝よう、なんて思っていた事が幼稚な考えに思えてきた。 訳の分からん日本人。ヘタすれば殺される。 今日はホテルを探そう。