LA PORTE D’OR

店主のブログ〜

オカシナタビ  9 シーター

2016.09.29

凄い。この街。 フランスの地図を思い浮かべて欲しい。左上の辺り、アンジェより車で2時間。

日本人どころか、中国人、東洋人すらいない。                   人口約9000人。

店は、例えるなら、アンジェは魔女の宅急便のキキが住んでいた街。         プロエルメルは、パズーが肉団子スープを買った、あの商店街にありそうなのパン屋さん。

これから働く事となったこの店は、代々日本人が働いていたらしく、働きに来る日本人には一定の理解がある。店の従業員は皆、親切。 

ひとしきり挨拶をすませる。              

そして、店から徒歩5分程の所にある、部屋に案内される。さほどなにを言っているか分からないが、おそらく、ここがお前にお部屋だと。   

時はもう夕暮れ。

明日は休みで明後日、朝4時にこい。と                                       全ったくもってよく分からないままプロエルメル生活がスタートする。

一人、ぽつーんと、取り残された世界。

ここは世界中のどこなのか、それすらよく分からない。

辺りを見回すと、棚の上にノートが、見ると日本語で先人が書き残したと思われる手書きの地図が、言葉は消えるが、文字は残せると言う素晴らしさに改めて気づく。スーパーの場所や郵便局、銀行など主要所が記してある。こんな孤独な土地で日本語、少し涙。

明くる日、街を歩けば、3才位の子供に丸い目で見られ、スーパーで油や塩を購入すれば、定員の兄ちゃんが、ここに住んでるの?と(笑)

飛行石でも持って穴に落ちたい、そんな気分だがシーターがいない。現実は厳しい。  

地図には近くに湖が有ると記してある。行ってみようと歩きだす。途中、自然になっていると思われるリンゴの木を見つけ、かじってみる。ゥェ。渋い。とても食える代物ではない。日本で品種改良されたリンゴが、とてつもなく美味しい事が分かる。

20分程歩き、ようやく、たどり着く。湖と言っても、本当に湖そのもの。白鳥の乗り物も、湖畔のホテルも、なにもない。広大な自然。切なさをあおられ、帰路につく。      

たとえるなら、シーターをムスカに奪われ、渋々家に戻る、パズーの気分だ。

幸いな事に、店とは逆に5分の所に大きなスーパーがあった。本屋さんなど併設してる。日本で言うSEIYU的な感じか。必要な物は最低限何でも売っている。       

明日は4時出勤。パン屋さんだけあって朝は早い。この先何が待ち受けているのか想像もつかないが逃げ出す手段もよく分からない。日本語を知っていても、伝える相手が居なければ、無意味だと当たり前の事だが、また、改めて思い知らされる。

アンジェはまだ良かった。住んでいる日本人も多く、街を歩けば、まれに日本語も聞こえてくる。何より鉄道が通っている。考え出すと切りが無い。

もう寝よう。

 

 

 

オカシナタビ  8 痛い

2016.09.20

フランスの鉄道には カルト ドゥーズ ヴァンサンク カルトはカード、ドゥーズは数字の12、ヴァンサンクは25、 12才から25才は運賃が割引になるカードがある。

作り方を教わり、パスポートのコピー、顔写真、申請書類を携え駅の窓口へと向かう。

申請料50ユーロ程を支払い、簡単に作ることが出来た。 フランスの鉄道、主にTGVは同じ区間でも、日にちや、曜日、時間帯によって運賃が変動する。 だいたい、パリ~アンジェ間は40ユーロ前後、ちなみにワールドカップ期間中は60ユーロ位だった。 人気度によって価格が変わる日本では見かけない、価格設定になっている。

このカードがあれば、その価格から2割引き位の価格で切符を買う事が出来る。 なんとも便利なシステムがある。 休みを利用してもう、何回かはパリまで出ている。もう少しで元はとれるか。 が、なれてきた頃に事件は起きる。

いつものように、カルト ドゥーズ ヴァンサンクを使い割引で切符を購入。

TGVに乗り込み出発の時を待つ。 走り出してしばらくすると、駅員がいつも様に検札に回って来た。 切符とカードを提示する。 ボンジュール、メルシーでいつもは終了するやり取りだがその日に限っては パスポートを見せろと。

が、普段パスポートなど持ち歩いてはいない。 ジェスチャーで持っていない。と示すとあろう事か、そのカードを没収されてしまった。 老け顔が災いし、年齢を怪しまれたのか、何とも切ない幕切れとなった。

ああ、50ユーロ。 ここは外国、改めて思い知らされた。

気がつけば、早、3ヶ月。 行きに来た飛行機の有効期限も、旅行者としてのビザも切れかかる。 何はともあれ、帰りの飛行機がある心の支えと、帰る手段を絶たれる絶望感と 今まで感じた事のない気分だ。

心の中に常に思う、自分で望んできたはずなのに自分のせいでなく日本に帰りたい気持ち。 ばあちゃん死なないか。天変地異が起こらないか。 あらぬ葛藤に日々思い悩まされ1日1日過ぎていく。

夏も終わりかけた頃、数店舗お店を統括し経営しているオーナーから指令が下る。 プロエルメルと言う街にあるパン屋さんで日本人が辞めたらしく そっちへ行って欲しいと。 もちろん、拒否権など無い。 慣れ始めたアンジェを後にしプロエルメルへと向かう事となった。

数日後、プロエルメルの店から迎えの車が来て、少ない荷物を積み込み 2時間程かけて連行された。 助手席に座ったが、飛ばす、飛ばす。

こわい。

この段階では、どこに向かっているのかさえよく分からない。 だが感じが良いプロエルメルのオーナーだ。 訳も分からず連れて来られた街だが、鉄道さえ通っていないこの街がまた、凄かった。

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